大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 平成9年(あ)1227号 決定 1999年12月20日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人小森栄の上告趣意のうち、憲法二七条、三一条違反をいう点は、実質は単なる法令違反の主張であり、憲法一四条違反をいう点は、記録によっても、被告人が特定の宗教団体に所属していることを理由として不当に不利益に扱われた事実は認められないから、前提を欠き、被告人本人の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

所論にかんがみ、職権により判断する。

私文書偽造の本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にあると解されるところ(最高裁昭和五八年(あ)第二五七号同五九年二月一七日第二小法廷判決・刑集三八巻三号三三六頁、最高裁平成五年(あ)第一三五号同年一〇月五日第一小法廷決定・刑集四七巻八号七頁)、原判決の認定によれば、被告人は、青木和宏の偽名を用いて就職しようと考え、虚偽の氏名、生年月日、住所、経歴等を記載し、被告人の顔写真をはり付けた押印のある青木和宏名義の履歴書及び虚偽の氏名等を記載した押印のある青木和宏名義の雇用契約書等を作成して提出行使したものであって、これらの文書の性質、機能等に照らすと、たとえ被告人の顔写真がはり付けられ、あるいは被告人が右各文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても、これらの文書に表示された名義人は、被告人とは別人格の者であることが明らかであるから、名義人と作成者との人格の同一性にそごを生じさせたものというべきである。したがって、被告人の各行為について有印私文書偽造、同行使罪が成立するとした原判断は、正当である。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項ただし書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例